トリスの部屋を出て、そのままトントントン…と階段を下りた先にネスティが立っていた。
どうやら待っていてくれたらしい。
私に気付くと声をかけてきた。

「遅かったな、

「うん、ネスティさんは早かったですね」

「………起こすだけだからな」

簡潔な返答。
だけど、その前の間が、起こすだけでは無かったのだと言っている。

「お説教でもしましたか…」

マグナもきっと試験の事を忘れていたのだろう。
私が思った事をそのまま口にすると、ネスティは気付いたらしい。

「やはり、トリスも忘れてたのか…」

…と、呆れたようにため息をひとつ、ついた。


△▼


トリスとマグナを起こし、青の派閥を出た私とネスティ。
まだ道をわかっていない私は、素直にネスティの後へとついて行く。
だけど、青の派閥へ来た時とはあきらかに違う道を辿るネスティ。

「ネスティさん、どこへ行くんですか?」

無駄に赤いマントをちょいちょいと引っ張り、質問。
ネスティは私を一瞥してから、答えてくれた。

「商店街だ」

「商店街? 何かご入用で?」

真面目にわからないから聞いたのに、ネスティは呆れたように私を見た。
そして、ひと言、呟いた。

「……君も馬鹿だな」

なんで馬鹿ばかりが回りに居るんだとネスティの表情が物語る。
引き攣りそうになる顔を押さえ、私は言い返す。

「……ネスティさん程じゃありませんよ」

いくらネスティが召喚師で私が召喚獣だからって、いきなり人を馬鹿呼ばわりするとは………失礼な。
いくら主人と下僕な関係(不本意)だからって、それは無いだろう。

第一、ネスティだって、そうとうな馬鹿だと思うぞ?

「…君の日用品を買いに行くんだ」

馬鹿呼ばわりされてムカムカしている私に、ネスティが私にそう言った。

私の日用品……日用品?
そうか、私は帰れるまで彼の元で過ごすのだから、必要か…。

「日用品と言うと、着替えとかですか?」

「ああ。いつまでも僕のお下がりを着ている訳にはいかないだろう?」

そう言って、またスタスタと歩き出した。
私は慌てて後を追う。

ネスティのお下がり。
それは、私が今着ている洋服の事だ。

私がネスティの部屋で目覚めた時、私はジャージに半袖Tシャツという、味も色気も無い格好だった。
まあ、ジャージとTシャツだし、下着もつけてないわけでは無かったから、そのまま外に出ても良かったのだけど、それを口にした途端、ネスティに怒られた。
それが普段寝る時にしている格好だと最初に言ってしまったのが原因だと思われるが、まあ、それは置いておこう。
ネスティは私の着ているモノが寝間着だと知ると、タンスのような所から小さめのズボンとシャツと上着を取り出して、それを着るようにと言ってきた。
その服は?…と聞くと、それは彼の幼い頃の洋服だそうだ。
そして、とんでもなく癪に障るのだが、今の私にぴったりのサイズであった。

その時のことを思い出して、目の前を行くネスティを見上げる。
153センチの私からしてみれば、とても羨ましいその長身。

「……ありがとうございます」

「……もともと僕の所為なんだから、気にするな。

素直に感謝した私に自嘲気味なネスティの返答。
それがとても彼らしくて、私は思わず笑ってしまった。

こういう所が、憎めない理由なのかもしれない。








back / top / next