コンコン…と2度ほどノックするが、返事は無い。
ネスティによれば、ここで起きたら奇跡。

「もしもーし、朝ですよー?」

第2段階へ移行。
扉越しに大声で呼びかける。

「………………」

これでも起きない。
だが、ネスティの説明でここで起きない事はわかりきっていた。
だから、第3段階へと移行してみる。

「……えーと、鍵穴は」

ネスティに貰った、この部屋の鍵。
なんで女子の部屋の鍵をネスティが持っているのかとか、色々突っ込んだら、妹弟子は寝汚いんだ…との返事。
それならネスティが起こせば良いのに…と言ったら、もうひとり起こさなければ行けない弟弟子が居るとの事。

ネスティの弟弟子と妹弟子。

それは、サモンナイト2の主人公。
マグナとトリスの事だろう……と、確信。
何故二人共いるのかは謎だけれど、私がここにいるのだ。

もう、なんでもありだろう……。


△▼


「ふーん、じゃあさんはネスの護衛獣なんだぁ〜」

「不本意ですけどね」

「そうなの?」

「はい、もともとあのおバカさんが起こしたらしい事故ですし」

自己紹介を終えた私と紫色に近い髪の少女の朝の会話のひとつ。
その私の答えがおかしかったのか、彼女があははと楽しそうに笑う。
私も釣られて笑ってしまう。
なんだか、とっても楽しい気分である。

彼女はトリス。
サモンナイト2の女主人公にして、私のご主人様――ネスティの妹弟子。

冒頭で少し触れたが、私はネスティに頼まれてトリスを起こしにやってきたのだ。
最初、自分を起こしたのが見知らぬ人間だという事に警戒していたトリスだったが、私の説明に納得してくれた。
そして、何がおかしいのか、笑い続けている。

「…えーと、トリスさん?」

「なに?」

いつまでも笑い続けるトリスに流石に心配になった私。
思わず呼びかけると、トリスは不思議そうに私を見上げた。
そんな彼女に色々と聞きたいこともあるのだが、今はそんな暇は無い。

「何がそんなにおかしいのかはわかりませんけど、時間がありません」

「ほへ?」

私の言葉の意味を理解していない様子。
ネスティの予測通りに……忘れているようだ。

ここまで正確に言動を読まれる間柄というのも、なかなか……。

とりあえず、私は一呼吸置いてから、口にする。

「…今日は大切な試験の日だと聞いてますよ?」

「試験?………あ、そっか〜」

ハテナマークと間が気になるが、思い出してくれたようだ。
というか、ひとつ突っ込みたい。
試験というものに気負いが無いのは結構だが、これではあんまりにもアレではないだろうか…と、思うのだ。

「サクサク支度をしないと間に合いませんよ?」

「うん、わかってる」

その軽い返事の仕方に、真面目に大丈夫だろうかと心配になったが、トリスの笑顔で全てが吹き飛ぶ。
目が、全てを物語る。
本当に、彼女はわかっているようだった。

口も声音も笑顔なのに、目が真剣だったのだ。

だから私は、余計な事を飲み込んだ。
そして、にっこりとトリスに笑いかける。

「わかってるんだったら、さっくり用意してくださいね」

しまった、少し嫌味っぽくなってしまったかもしれない。
だけどトリスは気にした様子も無く、笑顔で頷いてくれた。

「うん、ありがとね、

「どういたしまして。じゃ、また後で」

「うん、また後でね」

そう言葉を交わして部屋を出た。
そこでため息をひとつ。

ネスティといい、トリスといい。
巧妙に隠してはいるが、何かある。
この分だと、きっともうひとりの主人公。
マグナにも、そういうものがあるのだろう。

まったく。

彼らは何故、そこまで無理をしようとするのだろうか。



それが、彼らに対して抱いた疑問。








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