「…ここはどこでしょか、ネスティさん?」

私のその問いかけに、思考の迷宮に入りかけたネスティはピタッと止まる。
その表情は、何か思いついたような、でも疑問が残っているような感じである。

「……その前にひとつ聞きたい」

「はい?」

私の前で姿勢を正すネスティ。
その改まった口調に、なんだか身構えてしまう。

「君は、どこから来たんだ?」

どこから…と聞かれれば決まっているのだが、素直に言うべきなのだろうか。
…というか、素直に言ったら言ったで、馬鹿にされるか嘘吐き呼ばわりされる気がする。

私がどう答えるべきか迷っている間に。
ネスティは私をじっと見ながら、言葉を続けた。

「君の種族からするとシルターンだと思うんだが…」

「シルターン?」

それは確か、サモンナイト2の説明書にあった、選べる護衛獣のひとり。
ハサハちゃんの故郷、鬼妖界シルターンの事ではなかっただろうか?

「…シルターンじゃないのか?」

ネスティが何か言っているが、そんな事はどうでもいい。

彼は今、私がシルターンから来たのかと問うた。

…と、いう事は何か。
本気で私はサモンナイトの世界に来たという事なのだろうか?

そう簡単には信じられないが、そういう事かもしれない。
…とも、思う。
現実的ではないと言われるかもしれないが、世の中には解明されてない不可思議な事も多いのだし。
それに、日本には“神隠し”という伝説もある。
妄信的にそういうものを信じていたわけではないが、そういう事があるかもしれないとは思っている。
だから、嘘だろうとは思うけれど、そういう事かもしれないと、頭の隅に置いておく。

「ち…………か…?」

夢という選択肢もあるが、それにしては感情がはっきりとしているし、自由に思考することも出来る。
だから、夢ではないと思う。
私の夢は、曖昧で束縛的なものだから。

「…………い…?」

あと、目の前のネスティと名乗る青年が私を騙しているという選択肢もあるが、それはないだろう。
そういう意味で私を騙したところで彼になんの利益もないだろうし。
誘拐という線もあるといえばあるが、私を誘拐して何になる?
部屋の広さや家具の具合からして、お金には困っていない。
私自身が目的なら、とっくの昔に行動を起こしているだろう。
だけど、目の前は行動を起こしていない。
だから、誘拐ではないだろう。

やはり、私はゲームの世界へ来てしまったのだろうか?

「………おい、

「は?」

名前を強く呼ばれ、見ると不審そうにネスティが見ていた。

いけない。
どうやら、思考の海に沈んでしまっていたらしい。

「あ……はい、なんでしょか?」

慌てて私がそう聞くとネスティはこれ見よがしにため息をついた。

「…だから、シルターンでなければ、どこの世界から来たのかと、聞いてるんだ!」

少し強めに発音されたその言葉が、彼のイライラ度を示している。
人の事はいえないのだけど、ネスティって心が狭い……と、決め付ける。

「えーと、世界ってなに?」

「は?」

とりあえず、しらばっくれてみる。
すると、案の定、ネスティは疑問符を出してくれた。

「いやだって、世界ってひとつじゃないの?」

心にも無い事を言ってみる。
これは、本当にサモンナイトの世界なのかの確認の為。
何だかんだ考えても、やっぱり信じたくないから。

ゲームの世界に来てしまっただなんて……

「……君は、どの世界の出身でもないと?」

「だから、どの世界って何って聞いてるんですが?」

驚いた表情で問いかけてくるネスティに、イライラをぶつける様に言い返す。
実際にイライラしている訳ではないが、
演技には自信が………ないんだけどね。

「そんな………本当に、わからないのか?」

「だから、何を聞いてるのかの意味がわからないんですよっ」

そんな私の大根役者っぷりに素直に騙されてくれるネスティ。
なかなかの素直さんだなぁ…と、好感度アップ。

「じゃあ君は……“名も無き世界”から来たというのか?」

信じられないという風に呟くネスティ。

「名も無き世界…?」

ここがサモンナイトの世界ならば、ネスティのいるここは“リィンバウム”だろう。
んで、護衛獣さんたちの世界が“機界ロレイラル”“鬼妖界シルターン”“霊界サプレス”“幻獣界メイトルパ”……だったような気がする。
それは説明書で見た覚えがあるのでわかる。
だが、“名も無き世界”とは見た覚えが無い。

「名も無き世界って何?」

「……それは追々説明する」

演技でない問いに、つっけんどんに返してきたネスティ。
なんか、ムカつく。

「……いたいけな女子供をこんなベッドの上に連れ込んでおいて、何を追々説明すると?」

「なっ……!!!」

ボソッと言い放った言葉にどうやらダメージを受けた模様のネスティ。
素直さんなだけでなく、どうやら純情さんのようだ。

なんて可愛い性格をしているんだろうか。

そんな彼を追い詰めるのも楽しそうだが、それだと話が進まない。
とりあえず、首を傾げてみる。

「今すぐに説明してくれます?」

「………わかった」

誤解されたままでも気分が悪いしな…と、ネスティ。


そんな素直な彼を見て、ちょびっとだけ良心がちくっとした。








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