ゲームを買ったきっかけは、簡単。 電気屋さんの大きなテレビで流れていたデモ。 私はそれに、魅せられた。 曲の穏やかさと歌詞に秘められた静かな情熱。 それを現すかの様に、ゆったりと流れる映像。 とても、素敵だと思った。 △▼ 「んーと……、トリスかなぁ?」 取扱説明書を読んだ後、選べるらしい主人公二人と護衛獣を見ながらのひとり言。 他人が見たら怪しい事このうえないのだろうけど、幸い部屋には私しかいない。 なので、遠慮する事無く、ブツブツと呟いてみる。 「マグナも可愛いんだけど……でも、トリスも可愛いんだよなぁ……」 可愛い女の子とか男の子が大好きだ。 こういう癒し系な可愛さを愛でるのは、もっと好きだ。 …まあ、相手はゲームの中の人物なので、妄想というモノで愛でるわけだが… 「まあ、いいや。とりあえず、トリスにして、次の周でマグナ選べばいいか」 ちなみに護衛獣は最初から決めてあったりもする。 メイトルパの召喚獣、レシィくんだ。 あのぼんやりとした表情。折れた角に、しっぽ。 説明書の表紙に見え隠れしていた、しっぽ! そう“しっぽ” …私の萌え機関でもかなりポイントの高いそれ。 こう、ふさふさっと、もふもふっと。 心の底から込み上げて来る、“触りたい”という衝動。 実際に触れるわけではないが、そのさわり心地を夢見て顔が緩む。 「スイッチ入れて〜、ソフトも入れて〜」 初めて起動させるゲームへのワクワク感と共にPS2を起動させ、ソフトを入れる。 ちなみに、我が家にはPS2しかゲーム機が無い。 聞きなれた起動音の後、流れてきたのは店頭で見た、あの映像と音楽。 やはりというか何と言うか……見惚れてしまう。 そして、見惚れながらもソレが終わるとタイトル画面へと切り替わる。 「夜空…かぁ……、可愛いなぁ」 夜といえば闇とか孤独とか。 そういうコワイモノを想像してしまうものだけど、なんだかコワクナイ。 本当に。 どんな物語が展開されるのだろうか。 どんな優しさが入っているのだろうか。 とても、楽しみだ。 コントローラーをしっかり握り、“NEW GAME”を選択して○ボタン。 いざ、プレイ開始。 △▼ いざ、プレイ。 ………と、意気込んでみたのはいいのだけど。 ○ボタンを押した後、タイトル画面から黒い画面に切り替わり、そこから動かなくなってしまった。 これは、もしかしなくても、アレではないだろうか。 「………フリーズ?」 口に出してみると、かなり切ない。 まさかと思いつつ、本体の方へ意識を向ければ、うんともすんとも言わずに寝そべってるソレが。 前々からどうも調子が悪くなってきたとは思っていたが。 ついに寿命が来たのかもしれない。このPS2に。 「…出鼻挫かれた」 ポツリと言って、ため息ひとつ。 こうなってしまっては仕方ないのだが、何もこんな時に…、とは思ってしまう。 修理に出すか、新しく買いなおすか。 どちらにしても、当分はお預けだろう。 思い切りワクワクしていただけに、……………切ない。 「…いつまで見ていても仕方ないし」 心の中でめそめそ泣いて、本体の電源を切ろうと手をのばす。 すると、本体からヴー…と、起動音のようなモノが聞こえてきた。 あれ?…と思い、画面に目を向けると、そこには文字と選択肢が。 どうやら、フリーズ状態が解けたらしい。 心の中で……と言わず、体全部を使ってガッツポーズ。 「神様、ありがとう!」 こんな事で感謝されてもアレかも知れないが、感謝した。 ちなみに私は、神様を信じてはいるけど、宗教が嫌いである。 △▼ フリーズ状態が解けて、出てきた文字と選択肢。 [あなたの性別は? 男 or 女] 説明書には無いその始まり方に、私は少々戸惑ってしまう。 何せ、説明書には主人公の選択から…と、書いてあったのだから。 だけど、もう一度やり直すつもりは無い。 ただでさえ本体が不安定なのに、ここでやり直したらもう起動しないかもしれないという不安があったから。 それに、多少バグってるだけかもしれないし。 バグだったら、そのうち治まるだろう。 …と、楽観。 「えーと、トリスだから女?」 十字キーで右押して○ボタン。 すると、それまで出ていた文字が消え、新しい文字が出る。 [あなたが必要? Yes or No] 意味が分からない。 そもそも、何に必要なのだろうか。そして、誰に。 よく分からないけれど、選ばないとゲームは進まなさそうだった。 「えーと……イエスでいいのかな?」 なんとなく必要じゃないと言われるのが嫌なので、イエスを選択。 でも、そういう事を考える自分が嫌なので、ゲームなんだからプレイヤーは必要だ…と、言い訳をしてみる。 いろんな意味で虚しい、途中で止めたけれど。 とりあえず、十字キーで選択して○ボタン。 すると、何故だか、強烈な眠気が襲ってきた。 上下の瞼が視界を閉ざしてしまいそうになる。 思わぬ緊急事態に、心が焦る。 「……………っ」 これだけ眠いと、プレイ中に寝てしまうのは確実。 私の意志はそこまで強くない。 眠くなれば、あっさりと寝てしまうタイプだ。 だけど、負けてられない。 ただでさえ、本体の調子が悪いのに。 次にプレイしようとした時に、またきっちり動くとは限らないのだから。 「…………こんじょー」 覇気の無い掛け声で、気合いを入れてみる。 なんていうか、ここまで眠いのであれば普段ならば寝る。 そこまで無理をするのは信条に反するからだ。 なのに、何故かこの時は思ってしまった。 意地でもプレイしてやる…と。 「………………?」 重たい瞼をなんとか開けて画面を見ると、そこには二つも文字が並んでいた。 [召喚] そして、意識が途切れた。 シンと静まり返った、誰もいない部屋の中。 テレビ画面の中の文字が消え、新たに4つの文字が出た。 [召喚完了] そして、電源がぷつりと切れる。 画面は何も、映さない。 |