空にたくさんの星が流れていく。
それをぼんやりと眺めてタメ息をひとつ。

凪が来て、しょっぱい水を掬い上げる。

ゆらゆら ざっぷん

あの人は知らないだろう。
あの人は思いも付かない事だろう。

でも。でも。

俺はいつも想っている。

だからこそ、これは重い。
考えたくない。


   *  *  *


いつだったかかあの人は言った。

奪うこと、壊すことは簡単だ…と。
作り上げることは難しい…と。

それは当然のことで。
誰でも知っている当たり前なことだと。
俺が笑うとあの人は寂しそうに微笑んだ。

でも、人とは奪うものでしょう?

その言葉に驚いた。
この人がそういう考えを持っていた、ということに。
でも、俺の様子を気にも止めずにあの人はこうも言った。

好きだからこそ、大切だからこそ。
奪ったり、壊したり。
そういうことをしてしまうんです。
でもそれでは寂しいから。
哀しすぎるから。

だから…

人は作り上げることが出来るんです。

その横顔はとても綺麗で。
俺は息を呑む。

俺と向き合う姿勢。
でも俯いて。

…でも、難しくて。
時々、疲れちゃうんです。
でも、貴方が…

俺と目線を合わせると。

貴方がいれば、大丈夫だと思うんです。
だから。

だから、ずっと側にいてください。

いつものちょっと情けない顔で首をかしげて。
ちょっと照れているようで。
頬を薄紅色に染めながら。

ね、カイルさん?

微笑んだ。


   *  *  *


俺が欲しいのは。
俺が壊したいのは。
俺が奪いたいのは。

ただひとつ。

ただひとり。

あの人だけ。

ゆらゆら ざっぷん

凪が来て、しょっぱい水を掬い上げる。

空にたくさんの星が流れていく。
それをぼんやりと眺めてタメ息をひとつ。

「そろそろ交代の時間だぜ、先生っ!」

とりあえず、自分の未来の為に新しいものを作り上げようと思った。