むかしむかし、そのむかし
・・・って言ってもそんなに昔ではないのだけれど、
ある町に一人の女の子が住んでいました。
女の子の名前はトリス。
トリスはいつも一人でした。
父親の顔も母親の顔も知りません。
いわゆる孤児というやつでした。
ある日町の外れでトリスは、きれいな石を見つけました。
その石はたくさんありました。
色も大きさもいろいろあって、
とてもきれいでした。
トリスはなんだか幸せな気持ちになりました。
誰かが落としたのかなとも思いましたが、
こんなにたくさんあるのだから、
ひとつくらいもらってもいいかなとも思いました。
小さな石をひとつ、トリスは手に取りました。
不思議に懐かしい感じがしました。
その時、誰かに肩をつかまれました。
トリスがびっくりして振り向くと、
そこには町長の息子がいました。
にやにやと笑う彼をトリスは嫌っていました。
彼はトリスのことをいつもいじめるからです。
咄嗟にトリスは拾った石をポケットに隠しました。
しかし、彼はそれを見逃しませんでした。
トリスから石を奪いました。
トリスは必死になって返してもらおうとしました。
でも彼は返そうとしません。
トリスが石に手を伸ばしても彼はその手の届かないところに、
石を上げてしまいます。
それでもトリスはその石を取り返そうと手を伸ばしました。
もう少しで手が届きます。
あとほんの少しで手が届きます。
でも、届きませんでした。
トリスにはそれで限界だったのです。
トリスは悲しくなって泣いてしまいました。
彼はそんなトリスを見てにやにや笑います。
その時彼は手を下げていました。
トリスの手の届くところに手を下げていました。
とっさにトリスは石に手を伸ばして彼から石を取り返しました。
彼は怒りました。
そしてトリスを殴ろうとしました。
「誰か助けて!!」
そう、思ったとき、石が光りました。
その光はだんだん大きくなって町全体がその光に包まれました。
どどーん
耳が痛くなるくらいの大きな音と身体にかかる衝撃。
トリスは気を失ってしまいました。
トリスが気がついた時、すでに辺りは暗く、夜になっていました。
トリスは慌てて家に帰ろうとしました。
と、そこであることに気がつきました。
町が、壊れているのです。
トリスはこわくなって一歩後ろに下がりました。
そこで、何かやわらかいものを踏みました。
何だろうと思い、それを手にとりました。
それは手でした。
グーの形をした、手首の無い手。
血まみれの手でした。
トリスは悲鳴をあげてその手を落としました。
こわくてこわくて、トリスは逃げ出そうとしました。
そして見てしまいました。
怒った顔の町長の息子。
首から下の無い、怒った顔した彼を・・・。
そこでトリスは気を失ってしまいました。
次に目がさめるのは牢屋の中。
こうして彼女の物語は始まりました。
