ギブソン・ミモザ邸の庭先で。
ミーンミーンと蝉が鳴き、茹だるような暑さが痛い。
その木陰の芝生の上に、は寝そべっていた。

なんで夏は暑いんだ…

考えても仕方ない事だが、思わずにはいられない。
そもそも、の故郷――日本の暑さに比べれば、この程度の暑さは暑いうち入らない。
木陰で休んでいれば涼しい風がやってくるし、じめじめとした湿度も――おそらくは――低い。

「これでまだ初夏って言うんだもんな……はぁ…」

本格的に夏が来たら、どこまで暑くなるのか。
そう、考えるだけで、気が滅入ってくる。

「……? なにやってるの?」

「?……あ、マグナか…」

声のした方を見ると、ハサハを連れたマグナがの方へと歩いてくるところだった。
マグナと手を繋いでいるハサハと目が合う。
すると、ハサハはに向かってにっこりと笑った。

「………やっぱりハサハちゃんは可愛いなぁ」

思わず、の頬が緩む。
それをみたマグナがおかしそうに笑う。

「……なんだよ?」

「ううん、はやっぱりだなと思ったから…」

懐かしそうに目を細めるマグナ。
その様子になんだか落ち着かないは、起き上がってハサハの頭を撫でる。
そして、マグナの正面から彼を見据えた。

「…んで、何があったわけ?」

「うん、ちょっとね…」

あの戦いが終わった後、それぞれがそれぞれの道へと進んで行った。

例えば。

ルヴァイドやイオス、シャムロックは騎士団を設立。
ロッカとリューグ、そしてアグラバインは村の復興。
トリスは護衛獣のレシィと共に、召喚士として任務に勤しんでいるし、ネスティはその彼女の補佐へと回っている。
ルゥは見聞を広めると言い、ケイナやフォルテにくっついて旅に出た。
マグナとて例外ではなく、青の派閥の召喚士として、任務に追われている…はずだ。
ちなみに、はギブソンとミモザと一緒に行動し、帰る道を探している。

「実はさ…」

「うん?」

みんな、今頃どうしているのだろうかと考えていたへと、マグナが声をかけた。
照れているのか、彼の耳まで真っ赤になっている。
でも、その表情はどこか嬉しそうだし、彼にくっついているハサハも嬉しそうで。

その事から、彼が何を言いたいのか、わかってしまった。

「とうとうアメルちゃんにプロポーズしたのか?」

「ど!…どうしてわかった!?」

がニヤニヤした顔で言うと、マグナが真っ赤な顔をさらに真っ赤にして焦り始める。
その下で「落ち着いて」…と、ハサハがマグナの服の裾を引っ張っている。

「わからないわけないだろ? そんなに大きく顔に書いてあるのに…」

「ええっ!!!」

の言葉に素直に反応して、顔を手で押さえるマグナ。
その反応を面白そうに眺め、クスクスととハサハが笑う。
マグナはからかわれたと気付いて、ほんの少しだけムッとしたような顔をする。
けれども、すぐにいつもの穏やかな笑顔に戻った。

「あはは、……変わらないなぁ」

「マグナこそ」

マグナの言葉に、が軽く返す。
目線が交わり、穏やかな、あの時が戻ったみたいなほんのヒトトキ。

「……幸せになれよ?」

「うん、ありがとな」

少しの間を置いてが微笑むと、マグナが嬉しそうに微笑み返した。



それは、初夏のある日の出来事。




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